煙突文学全集009

 宮本百合子『道標』より。レーニングラードのこの季節の日没と日の出は一つの見ものだった。対岸に真黒く突立っている三本の煙突の一本めと二本めとの間に沈んだ太陽は、十二三分の間をおいただけで、すぐまた、沈んだところからほんの僅か側へよった地点からのぼりはじめた。沈むときよりも、手間どるようにその太陽はのぼって来る。バルト海からの上げ潮でふくらみはじめたネヷの水の重い鋼色の上を光が走った。河岸通りには…

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煙突文学全集008

 久生十蘭『海豹島』、『久生十蘭全集 第1巻』(1969年11月、三一書房)による。初出は『大陸』1939年2月。一、海岸に面した氷の斜面に足場を刻みながら、一歩一歩上って行くと、中腹の岩蔭に、人夫小屋が頑固な牡蠣殻のようにしがみついていた。入口に雪囲をつけた勘察加風の横長の木造小屋で、雪のうえに煙突と入口の一部だけをあらわし、沈没に瀕した難破船のような憐れなようすをしていた。

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旧刊再読

 由良君美『みみずく古本市』(青土社)。最近は古書店でも見なくなった。収まるところに収まって出てこないのだろう。みみずくシリーズはもう一冊『みみずく偏書記』というのがあったが、古書店で500円くらいでおめにかかりたいものだ。  書評集であるが、シクロフスキー『散文の理論』(1971年、水野忠夫訳、せりか書房)について書かれた「ロシア・フォルマリズム:この二〇世紀の隠蔽部分」(初出、1971…

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『風俗壊乱』反響(その15)

◇ 第64回岩手芸術祭「県民文芸作品集第42集」入賞者名簿に「評論」部門の優秀賞として、吉田直美氏の「「検閲制度」を通した温かで客観的な近代文学史 ~『風俗壊乱』(ジェイ ルービン)の意味~」があがっている。 ◇大貫伸樹氏のツイート(11月21日)に「最近読んだ本ではジェイ・ルービン『風俗壊乱 明治国家と文芸の検閲』(世織書房、2011.4)が面白かった。」とある。

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本郷書院

 上田敏『海潮音』(明治38年10月、本郷書院)。            小川菊松『出版興亡五十年』(昭和28年8月、誠文堂新光社)の「消滅した著名書店」の章より。▲本郷書院=本郷東片町で、図書の小売もしていた。押川春浪氏の冒険小説や、沼田笠峰の少女、詩人横瀬夜雨の詩文集などを発行して相当成績を挙げた筈だが、大正の末期頃に看板がみえなくなつた。 明治本は、概してしっかりしているし、紙…

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ガラス皿の音楽

 これ、ちょっとおもしろい。こどものころ、やったことがあるような。  ガラスの皿の音楽。

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吸引力あり

 三月書房さんがおもしろいというので、読んでみた。 山田稔『日本の小説を読む』(2011年11月、SURE)。もちろん、この人が魅力ある文章の書き手であることは知っているし、いくつか読んで感心もしている。読むと、ひきこまれそうで、いままで距離をたもってきたのだ。       とても疲れて帰宅したとき、本が届いていた。(三月書房さんは通販もあり。) 本など読める状態ではないのだが、つ…

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旧稿より(『たけくらべ』の紅入り友仙)

 まとまったものを書く余裕がないので、旧稿を再録する。              『たけくらべ』の紅入り友仙                                木股 知史  長胴着を姉に届ける使いを母に頼まれた信如は、はげしい時雨のため、ちょうど大黒屋の寮の門前で鼻緒を切ってしまう。障子の中硝子から眺めていた美登利は、信如とは知らずに、「友仙ちりめんの切…

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1Q84と100パーセントの女の子

 きょう、やっと図書館でコピーをとってきた。 ジェイ・ルービン先生の記事。見出しは「英訳者が語る村上春樹「1Q84」」。2011年10月18日、『読売新聞』朝刊文化欄、翻訳は畔柳和代氏。  ルービン先生は、1981年の短編「四月のある晴れた朝に100パーセントの女の子に出会うことについて」が好きで、「村上春樹のユーモア感覚、題材とたわむれ、読者を大いに笑わせようとする心意気が、彼の小説に私…

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読書と友人

 『本の雑誌』12月号の表紙に「本を読まない人はやがて友人がいなくなる。」と書いてある。  わたしの場合は、「本を読みすぎて、友人がいなくなった」か、「友人がいなかったから、本ばかり読んでいた」のか、「友人はいないが、そのこととは無関係に本ばかり読んでいた」のかのいずれかである。  栗原裕一郎「倉橋由美子の10冊 「いかに」をつきつめた作家」に感心。倉橋を読みたくなってくる文章だ。し…

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