絵はがきと印刷

 石版か木版か迷うような図版にであうことがある。もしかしたらふたつを混用している可能性もあるのではないか。

 印刷のことはわかりにくい。名のとおった制作者の発言は残りやすいが、印刷の現場の技法を伝える職人さんの言葉は残りにくい。たとえば、鏑木清方の指示はこうこうで、どの点が実現するのにたいへんだったということについての職人さんの回想があれば、おもしろいだろうと思うが、そういうのは残りにくい。

 海外の近代日本の絵はがきに関する本のなかに、印刷についてのおもしろい論文がある。

                  Art_of_japanese_postcard

 

 Art of Japanese Postcard(Museum of Fine Arts,Boston MFA Publications,2004) という本で、レオナード・A・ローダーのコレクションの名品集である。

 いくつか、論考がおさめられているが、ジョーン・ライト(Joan Wright)氏の  Postcards Observed:Notes on Printing Techniques という論文にいくつか興味深い指摘がある。

 ライト氏は、「1905年~1930年にかけて、日本の印刷業者に利用されたさまざまの技法はすばやく拡大し、印刷業者の実験は、しばしば、二つかそれ以上の生産方法を、一枚のカード上で複雑なやりかたによって結びつけた」と指摘している。最も一般的に使われたのは、石版(lithography)、コロタイプ、木版(woodblock printing)の三つだという。カラーリトグラフィ(クロモリトグラフィ)とコロタイプが、スムースに木版にとってかわったのは、木版での分業体制が生かされたからだと、ライト氏は述べている。

 『方寸』では、ジンク版と木版が併用された事例があるが、絵はがきでは、混用がもっとすすんでいたことになる。

 ライト氏は、寸美会の絵はがきをとりあげ、木版と、ステンシル(型版)や手彩色が併用されていることを指摘している。

 ライト氏は、木版、石版、コロタイプのそれぞれの印刷面の拡大図版を示していて、たいへん参考になる。注を見ると、日本の文献よりも、英語の文献が多くあがっている。

 筆者の美術上の知識のマスターの一人であるキュレーター氏が、まずすすめてくれたのは、性能のよい小型の拡大鏡を購入することであった。