木版画のこと

 木版画について、
  サビ彫り 2010年11月4日
  サビ彫り問題 2011年2月7日
  伝統版画vs創作版画 2011年2月8日
  伝統版画vs創作版画(その2) 2011年2月23日
 という記事を書いたが、五所菊雄氏からメールをいただいた。

 サビ彫りについては次のようなことを教えていただいた。

「サビ彫り」と「突き彫り」は似ています。
「サビ彫り」は、版木刀で彫りますので、日本的な感じがします。
「突き彫り」は、ビュランで彫ります。木口木版で使われた技法でしょうか。
日本では板目木版に駒透き(小さめの丸刀)で突いて彫ります。

 なるほど、微妙な違いがあることがわかる。

 山本鼎の《漁夫》については、次のような指摘をされている。

頭から首の後ろにかけては、すいた残りの線で、少ない髪の生え際と刻まれた首の皺を表わしているように思います。

どてら(大漁祝い袢纏とも)の場合、西洋の光の陰影を学んだ山本鼎は左からの光を設定してありますので、左側ではすいた線を太くたくさん彫っています。

右に移るに従ってすいた線は細く少なく彫っています。

明るい部分では、すいた線(白)で明るさを、右に移ってはすいた残りの(黒)で影を表わしているように思います。

膝裏の部分では、すいた線にうねりを持たせることで、あぐらの際のしわを表わしています。
また、背の肩の部分ではすいた線で白くなっていて、継ぎ当ての感じがします。

このように、「すいた線(白)」と「すいた残りの線(黒)」は微妙にない交ぜになっているような感じがしています。Photo_4

 「すいた線」「すいた残りの線」という表現は、拙文を引用してくださっているので、本来は、 「すいた線」は「陰刻」と呼び、「すいた残りの線」は「陽刻」と呼ぶということも教えていただいた。サンプルの版画も添付していただいたので、なるほど、よくわかる。

 五所氏が実際彫るときには、陰刻で表現したいときと、陽刻で表現したいときがあるという。

 五所氏によると、浮世絵はほとんどが陽刻による木版画であり、古い陰刻には拓本摺りのような感じを木版で表わしたものがあったようだ、という。中国にもあったと思われるが、それでも今日の陰刻法による絵の表現とは一線を画している、という。

 《漁夫》について、陰刻と陽刻が「微妙にない交ぜになっている」というのは、版画の素人にも実感されるところだ。

 伝統技法のルールから逸脱したところで、描線そのものが自己主張をはじめる、というように、小生は感じているが。

 版画について考えるようになったのは、『画文共鳴』(2008年1月、岩波書店)という本を書いているとき、『明星』の〈版表現〉の多彩さに導かれたゆえである。『明星画譜』を見たときは、その技法の豊かさにおどろいた。また、2000年春に、和歌山近代美術館で田中恭吉の作品、資料にふれたことも忘れがたい。

 いまは、岩切信一郎氏の『明治版画史』(2009年7月、吉川弘文館 )や、盛厚三氏の『木版彫刻師伊上凡骨』(2011年3月、ことのは文庫)が出ている。

 

五所菊雄氏のHP。

*サンプル図版は、もっと解像度のよいものをいただいたのだが、JPEGに転換したとき、少し画質が落ちてしまった。