小川未明『暗い空』(明治41年10月、『早稲田文学』.明治42年2月、『惑星』春陽堂)。
小川未明の初期小品には、きちっとした結末がないものがある。起承転結が明確な短編のセオリーにそわないものが多い。しかし、そこに味わいがある。
太い、黒い烟突が二本空に突立つてゐた。其の烟突は太くて赤錆が出てゐるばかりでなく、大分破れて孔が処処にあいてゐる。ちやうど烟突は船の風取りのやうだ――私が曾て日清戦争や日露戦争に行つて来た軍艦の砲弾に当つて破れた風取りや捕獲した敵艦の風取りだといふものを見たことがあるが、其れとちやうど同じやうに破れてゐる。其の隙間から青空が洩れて見える。しかも二本の烟突は五六間位離れて相並んで石油鑵のブリキ板で葺いた平たい小屋の頭からによきりと突出てゐた。
ある男が煙突を見つけ、のぼってゆく。すると追跡者が追いかけてくる。
さてどうなるのか。不条理の文学のはしりだ。
