煙突文学全集006

 有島武郎『或る女』。

 やがて葉子はまたおもむろに意識の閾に近づいて来ていた。
 煙突の中の黒い煤の間を、横すじかいに休らいながら飛びながら、上って行く火の子のように、葉子の幻想は暗い記憶の洞穴の中を右左によろめきながら奥深くたどって行くのだった。

 この小説は、こった比喩が使われている。煙突の黒煙のなかの火の粉のイメージは、当時、共有されていたのであろう。「意識の閾」って、明らかに、無意識の領域を考えているのだね。