煙突文学全集019

徳田秋声『足跡』。

  お庄は尻から二番目の妹と、一つの車に乗せられた。汽車に乗る前に、父親に町で買ってもらった花簪などを大事そうに頭髪にさしていた。
 車は湯島の辺をあっちこっちまごついた。坂の上へあがると、煙突や灯の影の多い広い東京市中が、海のような濛靄の中に果てもなく拡がって見えたり、狭いごちゃごちゃした街が、幾個も幾個も続いたりした。そのうちに日がすっかり暮れた。