有島生馬『死ぬほど』

 恩地孝四郎展でも展示されていたが、有島生馬『死ぬほど』(春陽堂、大正9年6月、図版は同月の再版)は、菊半截の小型本ながら、未来派風の表紙画は、目を引いた。
 きょうは、扉を紹介しておこう。この時期の線描が好きである。奥にあるのは眼球だろうか。向こう側から見ている=奥から見られている、というモチーフは、主客の転倒を暗示している。

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 『死ぬほど』とは、歌謡曲風の題名だと思う方がおられるかもしれないが、扉があって聖書の『雅歌』第8章からとられたことばであることが記してある。

われを汝の心の上に据え封印の如くし、汝の腕の上にも封印の如くせん。いかんとなれば恋は死ぬほど強く、嫉妬は地獄の苦みにひとしければなり。

 額縁入りの手記型小説で、パリで病死した、オルタンスという恋人がいる彫刻家中條の手記が、没後に友によって公開されるという構成。芸術家小説である。モデルがあるかどうかは調べていない。
*恩地家と有島家の関わりについては、過去記事「恩地孝四郎と有島家」参照。