松岡譲の河出文庫版『夏目漱石』が、何度も読むうちに、背中が断裂してしまったので、一応修理はしたが、同内容で、「第二章 作品の性格」が付いている『漱石 人とその文学』(昭和17年6月、潮文閣)を買い求めた。
これも、紙質が悪いが、写真は貴重なものが多く、それほど印刷は劣悪ではない。たとえば、漱石蔵の良寛の書と、漱石自身の筆跡が比較できるように図版が並んでいる。
初めて読む「第二章 作品の性格」に「心境の芸術」という節があり、次のような興味深い記述が見られる。
心の芸術家漱石には終始一貫心の故郷があつた。小品の世界がこれだ。静かに澄んで、いかにも高品な潤ひがあり、千年来の日本文学の奥ゆかしい伝統の味ひを伝へて、しかもそれを次々と新らしく、生かして居る。
『永日小品』『思ひ出す事など』『硝子戸の中』『ケーベル先生』などが挙げられている。松岡は、小説は時代に左右されるが、小品という「心境の芸術」は、不易の美によって人の心に訴えるという趣旨のことを述べている。
