版面を分析する

ある学会で、図版を持ち寄って、それがどういう版であるかを分析するというこころみがあったそうな。
わたしが初めて迷いを感じたのは、石版と木版の区別だった。
先行文献では、区別の仕方を示したものもある。
ロートレックの石版ポスターは、クロワゾニズムというか、それぞれの部分の色を変えるという木版画の技法を模倣したものになっている。もともと多色石版(クロモリトグラフィー)は、連続諧調でのフルカラー印刷が可能であった。ジュール・シェレなどは、それを駆使してポスターの時代を作った。
しかし、ロートレックは、ジャポニスムを通過して、多色石版を木版のように使ったのである。霧を吹いたような版面になるので木版ではないことがわかる。
その手法が、〈ジャポニスムの里帰り〉現象(高階秀爾)で、近代日本にも伝わってくる。
鏑木清方は、木版的石版を試している。
拡大鏡を使って観察するのだが、なかなかわかりにくい。画像をキャプチャーできないかと思案していて、よい機械があることがわかった。
IMG_2716.JPG
ナノ・キャプチャーという、サイトロン社の拡大カメラである。
キャプチャーショットがとれるのがいい。
写そうとしているのは、岡本一平の『へぼ胡瓜』(大正10年5月、大日本雄弁会)。絵入り自伝的小説である。
ふんだんに金属版の挿絵が入っている。
魚を拡大すると次のようになる。
S20170202_001.jpg
いや、なかなかいいね。
『へぼ胡瓜』には旺文社文庫版(『へぼ胡瓜・どじょう地獄』1982年5月)があるが、比べてみれば、何か違いが出るだろうか。
やってみよう。
これが文庫版の挿絵の拡大図である。
S20170202_002.jpg
べたっとつぶれている。
複製の印刷なので、オリジナルにある微妙なかすれなどが消えてしまっている。
微妙なかすれが肉眼にはたらきかけるのだと思う。これからは、理系の領域である。
しかし、思った以上の性能である。

この機械を知ったのは偶然である。
キュレーターの世界ではもう当たり前なのかもしれないが、文学と美術の交流研究が、版面研究につながり、よいツールが見つかったのである。(木股知史)

この記事へのトラックバック