あれとこれシリーズは、似ているようで離れている、離れているようで似ているものを二つ取り上げて比べてみるというアイデアからはじめたものだ。
今回は、複刻版とオリジナルの比較である。
複刻版は、研究をはじめた頃にはなくてはならぬ存在であった。第一次『明星』の複刻版は、27万円、月賦で購入していた。はたらいていたので、気軽に研究室でみるというぐあいにはいかなかった、記事はむろんのこと、図版にも関心をもった。そのころは、オリジナルを見たことがないので、複刻版の図版をコピーしていた。コピーの図版を分類してみた。
写真製版だと、もとの印刷の感触が分からないということは認識していた。
「日本の古本屋」のサイトが始まって間もない頃だったと思う。「明星」を検索してみた。ほとんどが、芸能雑誌の『明星』だったが、青森の古本屋さんに、崩れ本であるが、オリジナル『明星』の明治37年1月号があり、注文してみた。2500円くらいだったと記憶する。この号は図版が多い。いちばん重要な歌がるたの図は切り取られていた。しかし、中沢弘光の図版、オルリクの木版は残っていて、その美しさに驚いた。
オリジナルへのこだわりが生まれたのはそのときである。
さて、きょうは、金属版を比べてみよう。蕗谷虹兒の『花嫁人形』である。
右が、国書刊行会版の複刻版(平成21年3月11刷、初版は昭和59年12月)。左が、オリジナル、昭和10年10月、寳文館版である。オリジナルはクロス装の感触が明確に分かる。複刻版はよくできているが紙装とみた。
花嫁の図はオリジナルのもの。
着物の模様を比較してみよう。
ほとんど、区別がつかない。しかし、花のしべの部分がつぶれている下図が複刻版である。
金属版の場合、複製の精度が上がると、肉眼ではほとんど違いがわからない。
色を使ったものを比較してみる。まずオリジナルの全図。
拡大してみよう。
青に、文様があることがわかるだろう。着色は石版を用いた可能性があるだろう。
複刻版をみてみよう。
照明の加減も影響しているかもしれないが、色が浅い。
1935年に斬新なコラージュの手法を使ったパリの図をみてみよう。
全体図はオリジナルのものである。
写真網版だと思われる。
エッフェル塔の中央部を拡大して比較してみる。
さあ、どちらがオリジナルか、わかりますか。
ドットの文様が大きい下図が複刻版。
どうしてこの違いがでるか、わからないが、推測すると、オリジナルを複写した時に目が粗くなるのだろうか。
オリジナルは、全体を見た時に、淡いなめらかさが出ているようだ。
ビアズリー挿絵のワイルド『サロメ』のレーン社版が日本にも入ってきて、微細な線を表現する金属版に刺激を与えた。
蕗谷虹兒はその微細な線を生かした表現を展開した。
竹久夢二に発する抒情画の伝統と、金属版が可能にした細い線の表現による装飾性が調和している。蕗谷は『花嫁人形』を「詩画集」と呼んでいる。
植物の線描には、『月映』の版画家たち、就中、田中恭吉の試みが大衆化した感触も感じられる。(木股知史)
