あれとこれ 木版と石版

 はじめて手にしたオリジナルの『明星』は、明治37年1月号。日本の古本屋のサイトができてまもないころ、まだ検索に制限がなく、平凡出版の芸能誌『明星』ばかりが際限なくでてきて、まいったが、あきらめずにつづけていると、青森の古本屋さんで、この号が見つかったのである。価格は2700円だったと記憶する。
 それまでは、臨川書店版の複刻版の図版をコピーして、ファイルに分類していたが、印刷の本当の状態はオリジナルを見ないと分からないと痛感していた。
 届いたものは、外部の保存はよいとはいえなかったが、図版の状態はよかった。この号は図版が豊富で木版や石版の感触を確かめることができた。木版と石版について「版の表現」という視点から『画文共鳴』(2008年、岩波書店)で書いたが、区別の根拠はなかなかむずかしいところがある。今回は、ナノキャプチャの拡大画像を使って、違いに迫ってみた。
 中澤弘光の《京の子》は、目次では「絵画石版刷」という説明が付いている。
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 同じ号には、プラハ生まれでウィーン分離派の一員であり、来日して木版の技法を学んだエミール・オルリクの木版《印度人と日本婦人》が掲載されている。
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 下図は《京の子》の帯と着物の境目の拡大である。分色した地に茶色の線が重ねられている。
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 双眼鏡をかまえる女性の顔の部分は次のようになっている。
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 比較のため、オルリクの木版の襟元の拡大図をあげてみる。
図10.jpg

 緑、黒、赤の着物の色の版と、輪郭線の版が明確に区別できる。
 石版の線描は途切れがあり、木版の線描は連続性がある。ただし、《京の子》の茶色の線の細密な表現が木版では不可能だということはないだろう。
 双眼鏡を持つ指のあたりの途切れが石版の特徴を示している、といちおうはいえるだろうか。
 オルリクの木版のサインの部分は拡大すると下記の図のようになっている。
図11.jpg

 イニシアルを示すOEの文字に赤が重ねられるが、板の目が看取できる。
 同じ号には、石井柏亭の石版《河畔》も掲載されているが、こちらは木版の特性である奥行きが感じられない。
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 右下の鳥の部分を拡大してみよう。
図13.jpg
 石版特有のずれが見られる。
 11日に、人前で話す機会があったが、以上は、そのときの話題の一部である。
(木股知史)




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