鏡花、竹風、共訳のハウプトマン『沈鐘』

 先日、文庫櫂ですすめてもらった本にヒントがあり、泉鏡花と登張竹風の共訳のハウプトマン『沈鐘』(明治41年、春陽堂)を購入。念のため、岩波文庫版の阿部六郎訳も準備したが、鏡花、竹風版の方が読みやすい。グラシン紙を剝がすのが面倒なので、はっきりわからないが、ドイツの書籍らしい装幀である。
 「図書新聞」昭和52年10月22日号の辻久一の「『沈鐘』」という記事の切り抜きが挟み込まれていた。辻は昭和5,6年頃に躍起になってこの鏡花訳をさがしたがみつからなかった。昭和8年に召集解除で帰国したとき、芦屋の古本屋で見つけたという。装幀について、辻は次のように描き出している。

 昔風に言う四六判で、堅牢な紙表紙である 。地色は朱がかかった茶色で、表紙は、青い夜空に星が散らされ、緑の線の模様で飾ってある。上部に著者名、下部に題名が、ヒゲの目立つドイツ書体でしるされ、内容にふさわしいメルヘン風の美しい装丁である。日本語題名と共訳者名は、背に記してある。
 見返しと扉の間に、若いハウプトマンの肖像のデッサンがある。署名は、ローマ字でM・ISHIIとある。同じ画家による作中人物のデッサン数葉が、本文の間に挿入されている。

 辻はこのM・ISHIIがだれかわからないと書いているが、石井柏亭だと推定される。柏亭の本名は、満吉である。けれんのない筆致も柏亭らしい。しかし、辻も指摘するように、装幀が柏亭によるものかどうかはわからない。
IMG_2854.JPG

fullsizeoutput_75c.jpeg
IMG_2856.JPG
 扉のアール・ヌーヴォー風の図案は美しいが、下部中央にサインらしきものが見てとれる。F、それにOだろうか。もしかして、F、T、Φの合成文字だろうか。それなら藤島武二? しかしこのとき藤島は欧州留学中である。(どなたか、わかれば、つぶやいてください!)
 口絵の肖像の署名のあとに、08とあるのは、1908年の略で、明治41年で、刊行年に適合する。
 装幀のコンセプトは洋書の模倣だろう。先日、入手したフィシャー社100年史では、よく似た装幀が紹介されていた。
 文学書に限定して書誌をつくるにしても、わからないことだらけである。
 『沈鐘』の装幀には、鏡花の希望が反映しているのだろうか。明治本の堅牢さはすばらしいと思う。

〔付記〕《百版道》さんのつぶやきによると、扉デザインは、原書どおりとのこと。調べると、サインも原書にあるのと同じである。ご指摘ありがとうございます。



この記事へのトラックバックURL
http://blog.seesaa.jp/tb/451480824
※言及リンクのないトラックバックは受信されません。

この記事へのトラックバック