壁に肖像を掲げる

 前にちょっと書いたけれど、壁に肖像画や写真を掲げる様子が描かれている荒畑寒村の小説がわかった。『逃避者』である。引用は、伏字だらけの『光を掲ぐる者』(大正12年4月、東雲堂書店)による。20数名の同志が集まって、大逆事件後の冬の時代の中で、どのように運動をすすめるかについて議論をする小説である。
 次のように、部屋の様子が描写されている。
 卓の上には何の装飾も無く、背後の床の間にはKーーが獄中絶吟の一軸がかゝつて、洋書のギツシリ詰つてゐる本箱が幾つか並び、壁の上にかけ並べた▢▢▢▢で刑死した同志や、外国の有名なソシアリストやアナアキストの肖像が、明るい白熱ガスの光りに、浮き出るやうに照されてゐる。
 幸徳秋水の書がかかり、伏字は「大逆事件」を指している。
 外国思想家といえば、クロポトキンやバクーニン、マルクスなどが思い浮かぶが、刑死した同志の肖像は、絵画か写真かどちらだろう。

 島崎藤村の小説など見てみると、また事例があるかもしれない。

 石川三四郎『浪』には、「平民社發行の繪ハガキが、マルクス、クロポトキン、ベーベル、エンゲルス、トルストイの肖像を一組にしたのでも、平民新聞の思想的態度が察せられます。」という一節があり、これらが壁に貼られた可能性もあるだろう。また、父が板垣退助の肖像を掲げていたという記述もある。