竹久夢二の装幀はいつも工夫に富んでいるが、わたしがベストワンと考えているのは、吉井勇の歌集『黒髪集』(大正5年4月、千章館)である。
*『黒髪集』表紙。パラははずしていない。
柳の枝と葉が描く曲線におおわれるように、肌脱ぎになった長い髪の女性がすわっている。
両手で顔を覆って、悲しみにくれているように見える。
上部に配されたハート(心臓)の先端から、赤い線がのびて、血に逆ハート型の血だまりをつくっている。
*『みだれ髪』4版、明治39年10月
矢が射抜いたハートの先端から血が滴って、「みだれ髪」の文字を描いている。
『黒髪集』という書名からも連想されるが、この絵の発想源は、与謝野晶子『みだれ髪』(明治34年8月)にあると考えられる。
ただ、夢二が描いた心臓と血の滴りの構図は、『みだれ髪』のパロディからとられた形跡がある。
小杉未醒の『漫画一年』(明治39年12月、佐久良書房)に収められた「今のべら棒」という一葉である。
未醒の絵に、武林磐雄が文をつけている。
「べらぼう姓は星戸氏諱は菫とて雛妓にありさうなれど二十世紀には男称なり。職業は詩人に社会主義を兼ねたり。いはを」と書かれている。
ハートの上には星があり、地には菫の葉がある。この図柄を夢二は参照したのではないか。
直接、『みだれ髪』を参照するのではなく、そのパロディから構図のアイデアを得ているところがおもしろい。歌も何首か紹介しておこう。
恋しやと思ひつむれば君見ねどなほ君を見しここちこそすれ誘はるる誘ふともなく君にゆくうつらうつらの夢見ごこちに
吉井勇は、画文のひびきあいに関心があった。過去記事《吉井勇『漫画漫筆ねむりぐさ』》。
