日露戦役紀念絵葉書に「ヌーボー式」装飾があるわけ

樋口雪湖が制作に携わった、数次にわたって発行された日露戦役紀念絵葉書には、光琳式やアールヌーボー式の装飾が加えられたり、多色石版の複数回刷りが採用されている。

日露戦役紀念絵葉書になぜ装飾が多用されるか。その答えとなる一つの根拠が見つかったので紹介しておこう。

過去記事《古本日記 復刻版『日本絵葉書史潮』》で紹介した図録『巷の目撃者』(新宿歴史博物館、1999年10月23日〜12月5日)には、「資料編」が付いており、そこに公文書「明治37年6月21日 戦役紀念郵便絵葉書発行の件(通第二六二五号)」が掲載されている。
前文は次の通り。

戦役紀念郵便絵葉書発行ノ件
今回外征ノ事タル古来未曾有ノ国栄二候処、此際右紀念トシテ交戦ノ実況及之に関スル図画ヲ印刷シタル郵便絵葉書ヲ発行シ、一ハ出征軍隊慰藉ノ為メ之ヲ贈与シ、一ハ一般之ヲ売下ケ以テ内外国人二交戦ノ実況ヲ知ラシムルハ最モ時機二適シタル計画ト思考候二付、右発行ノ義仰高裁但シ本用紙発行二関スル諸般ノ処理方ハ左記通り取計可然乎、併テ相伺候
発行の目的は二つ。
一つは軍隊への慰謝、もう一つは一般国民に「交戦の実況」を知らせるためである。

細則の「図案及材料」に次の一項がある。

一 図按ハ重々交戦ノ実況及之ニ関係アルモノトシ、「アトドタイプ」色摺又ハ打出等図案二応シ適当ノ印刷意匠ヲ施シ上製ノモノトスルコト

「アトドタイプ」は「アートタイプ」、すなわちコロタイプのことである。
「上製ノモノトスルコト」という指定があり。これが絵葉書に装飾が加えられる動機の一つになったのではないか。

国家の要請は、経済の最適コストを超えて、手がかかり凝ったものを実現したことになる。

10年前に絵葉書の重要性に気がついていたが、絵葉書そのものはコレクターがたくさんいて、参入しにくいとの先入観があって実際手にすることはかなり遅れた。

考えれば、印刷見本として、絵葉書はきわめて重要で、小さな画面に多色石版の実際を確認することができるのである。

〔付記、2022年5月9日〕オリジナルの絵葉書の図版追加。

第一次の日露戦役紀念絵葉書《得利寺戦役我兵の砲撃》。

IMG_0999.jpeg

アール・ヌーボー風、あるいは琳派風の装飾花枠。

スマホ等で拡大されると、印刷の精細さを体感していただけるだろう。


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