いいものを見つけた。
多色石版の印刷の実演。
チェコの作品か。
題は、「アルチンボルドに触発された14の色版のリトグラフ オルドリッチ・イェーレン、ピーター・コルベラー」でよいのか。
石版の実演は、モノクロはたくさん見ているが、今日は思いついて、多色石版の実演を探してみて見つけた。
関心がない人にはわからないだろうが、わたしにはとてもおもしろい作品だった。
見どころは以下のとおり。
◇まず、原画(水彩画)は石版より小さく、石版上に画家が拡大して描画していくところ。
◇最初の版が墨ずりであるところは、浮世絵と同じだ。
◇まず何よりも、色を重ねていくところがおもしろい。ほぼ透明のような版もあるが、重ねることで立体感が出てくる。
◇各版が校正として残っていくところもおもしろい。
◇インキはローラーに転写してから、絵にプレスしている。明治期日本では、トンボの見当を使っていた。ローラーを使う方がずれがでにくいのがわかる。
◇絵の微調整をしているところ。
◇絵には隠し絵的秘密があるが、わたしは真ん中ぐらいで気がついた。
完成まで210日を要したという。
手作業の多色石版のたいへんさがよく伝わってくる。
〔付記、2022年7月6日〕
版画家の五所菊雄氏よりメッセージをいただいた。
わたしが「インキはローラーに転写してから、絵にプレスしている」と書いたのは、「版のインキはローラーに転写してから用紙に転写プレスしている」ということで、「オフセットでの手刷り」ではないかという指摘をいただいた。
村井商会のタバコの包装の印刷で知られた中西虎之助が、明治43年にアルモ印刷合資会社で、アルミ版輪転印刷機により、前川房之丞の描画による砂目石板を複製したが、オフセット方式によるものであった。
中西は、大正3年、市田幸四郎とオフセット印刷合名会社を設立し、ハリス四六半截自動オフセット輪転印刷機を導入し、本格的オフセット印刷に乗り出した。(以上、『本邦オフセット印刷の開拓者 中西虎之助 日本平版印刷発達史』昭和31年12月3日、凸版印刷株式会社、編集増尾信之による。)
石版印刷がオフセットにつながるというのが印刷史の記述であるが、「アルチンボルドに触発された14の色版のリトグラフ オルドリッチ・イェーレン、ピーター・コルベラー」を見るとそのこともよく理解できる。