竹久夢二の形容によく使われる「大正ロマン」という語について、石川佳子氏は、筒井清忠編『大正史講義【文化篇】』(2021年8月、ちくま新書)所収の「第13講 竹久夢二と宵待草」で次のように記している。
「大正」の再評価、そして夢二生誕九〇年の展覧会を機に評された「ロマン」の語も誘因となり、一九七〇年代より「大正ロマン」が少しずつ使われるようになる。
昭和五三年には、サントリー美術館で展覧会「大正ロマン」が開催され、夢二生誕100年の昭和59年前後から、夢二展のタイトルや独立した単語として用いられたとも、石川氏は指摘している。
また、石川氏は、明治30年代の「明治浪漫主義」の「「明治」の語を「大正」に置き換え、さらに夢二のイメージを多分に含みながら解釈を広げて、「大正ロマン」という言葉の成立に至ったと推測される」とも述べている。
国立国会図書館デジタルコレクションで検索してみると、大正ロマンティシズム、大正ロマンチシズムの用例は、1950年代から見られる。
たとえば、木原孝一『詩の教室 Ⅱ』(1957年4月30日、飯塚書店)は近代日本詩史であるが、巻末の図表に、佐藤春夫、堀口大学を対象に「大正ロマンチズム」に分類している。
また、加賀山直三『歌舞伎の視角 : 十六種の狂言鑑賞を通して』 (1957年(角川新書)では、舞踊劇『六歌仙』について、「文人画風アレンジメントから大正ロマンの肌ざわりへ」という表現が見れる。
さて、「大正ロマン」は「大正ロマンチシズム」の略語と言えるのだろうか。
新選漢和辞典Web版(ジャパンナレッジパーソナルによる)では「浪漫」の語釈の③として、「詩意に富み、幻想にあふれていること。英語 romantic の訳語。」という記述があがっている。
「浪漫」はromanticの訳語だとして、「ロマン」はromanの訳語でもある。
フランス語romanは、中世の詩物語であり、英語romanceは、冒険や恋愛を描く伝奇的物語をさす。
ここから派生して、はなやかで空想的な詩美に満ちた雰囲気そのものを意味するようにもなる。
「大正ロマン」という言葉を見て、人々は、詩美と空想に満ちたはなやかな時代を連想するかもしれない。
つまり、「大正ロマン」は大正ロマンティシズムから派生した可能性はあるが、受け手はそれとは異なる意味づけをして、意味が少しずれていくということもあるのだろう。
