深瀬基寛(ふかせ・もとひろ、1895−1966)は英文学者。ながく京大教授をつとめ、T・S・エリオットの研究で知られる。
これは、私は非常に面白いと思うのですが、現代でも私はやはり science and poetry という問題、まァ宗教と詩という問題もありますけれども、あまり範囲をひろげますと、今日暑いのが余計暑うなりますので、まァええ加減できり上げるつもりですけれども、これが依然として問題でありますのは、この問題の取り上げ方が、リチャーズとは大分変ってきているのであります。大体、さっきのシェリ、ワーズワスの時代の defence of poetry はどういうところに立って詩を弁護したかと申しますと、あの時代の Industrial Revolution ――産業革命――です。あれがつまりロマンティシズムの、つまりキーツとかシェリとかワーズワスの時代の詩的活動の中心が、この産業革命というものに対する reaction です。非常な反逆。これがつまりイギリスのロマンティシズムというものの根本なんです。彼ら詩人にとってはですね、この煙突や鉄道や、こういう我々の日常卑近な生活を安易にするための、知識あるいはそれの応用たる科学工業、こういうもののために日々にイギリスの田園が荒らされて行って、詩人の呼吸する余地がなくなった。これに対する反逆なんでありますが、現代では、ま、産業革命に対する詩人の反逆、これは依然としてやはり詩人の課題だと思うんです。「悦しき知識――停年講義(昭和三十三年九月十六日)」より
「悦しき知識――停年講義(昭和三十三年九月十六日)」は、「深瀬基寛集第一巻』(1968年9月、筑摩書房)所収、初出は「英文学評論 第六輯」(1959年3月、京都大学教養学部英語教室)。
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2023/09/05 9:44
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