煙突文学全集024

。徳富蘆花『不如帰』。 夜十時点検終わり、差し当たる職務なきは臥し、余はそれぞれ方面の務めに就き、高声火光を禁じたれば、上甲板も下甲板も寂としてさながら人なきようになりぬ。舵手に令する航海長の声のほかには、ただ煙突の煙のふつふつとして白く月にみなぎり、螺旋の波をかき、大いなる心臓のうつがごとく小止みなき機関の響きの艦内に満てるのみ。 仰ぎ見る大檣の上高く戦闘旗は碧空に羽たたき、煙突の…

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煙突文学全集023

小出楢重「上方近代雑景」。 私は子供の如く、百貨店の屋上からの展望を好む。例えば大丸の屋上からの眺めは、あまりいいものではないが、さて大阪は驚くべく黒く低い屋根の海である。その最も近代らしい顔つきは漸く北と西とにそれらしい一群が聳えている、特に西方の煙突と煙だけは素晴らしさを持っている。しかし、東南を望めば、天王寺、茶臼山、高津の宮、下寺町の寺々に至るまで、坦々たる徳川時代の家並である。あ…

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地域の文学史

 亀井秀雄氏のブログ《この世の眺め》の記事に出ていたので、興味がわき、小樽文学館から「小樽「はじめて」の文学史―明治・大正篇―」を取り寄せてみた。  論文の抜き刷り形式で簡素なかたちだが、中身は詰まっている。 仕事がたいへんで、ぱらぱら少しずつしか読めないが、おもしろいと思う。解説は《この世の眺め》の記事を見てください。  石川啄木の小樽での演劇体験の意味。改造社の『現代日本文学全…

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煙突文学全集021

田中恭吉のことを調べていて見つける。 創作版画誌『月映(つくはえ)』Ⅶ輯(大正4年5月発行)に掲載された、田中恭吉の短歌「北豊島野」から。 明治43年9月、大槻憲二とともに、北豊島郡巣鴨池袋の家に移り、隣家には藤森静雄と弟も越してきた。 ただひとつ森のあはひに煙[ルビ けむ]あがるえんとつのあり赤きゆふぐれ

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煙突文学全集020

赤き烟黒き烟の二柱真直に立つ秋の大空  夏目漱石の明治32年の短歌だという。『吉本隆明資料集134 写生の物語(上)/古代歌謡論』で見つける。

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編集者が語る

 『ぼくの創元社覚え書』の著者高橋輝次さんがNHK第二放送に出ている。  放送局のHPから引用させていただく。 テーマ:編集者が向き合う“日本語”の顔 出演 :高橋 輝次(フリー編集者、元・創元社編集部) 長年、編集者として本作りに関わってきた高橋氏の貴重な経験を具体的に話していただく。 本作りの中での、編集者としての、言葉との格闘・葛藤、喜怒哀楽などを中心に。 ※…

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煙突文学全集019

徳田秋声『足跡』。   お庄は尻から二番目の妹と、一つの車に乗せられた。汽車に乗る前に、父親に町で買ってもらった花簪などを大事そうに頭髪にさしていた。  車は湯島の辺をあっちこっちまごついた。坂の上へあがると、煙突や灯の影の多い広い東京市中が、海のような濛靄の中に果てもなく拡がって見えたり、狭いごちゃごちゃした街が、幾個も幾個も続いたりした。そのうちに日がすっかり暮れた。

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煙突文学全集018

 葉山嘉樹『海に生くる人々』。《》内はルビ。 水夫らはボートやサンパンを吹き飛ばされないように、それを、より一層ほとんど、吹き出したいくらいに、頑丈《がんじょう》に、これでは沈没した時に決して間に合わないと、証拠立てられるほど、それほど頑丈に、くどくどとデッキや煙突にまで、綱を引っぱった。そして、この仕事は、波浪の恐れは全然なかったが、動揺と、風と、おまけに「てすり」がないので、海へ落ちる…

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煙突文学全集017

小林多喜二『蟹工船』。《》内は、ルビ。 もう海一面、三角波の頂きが白いしぶき(引用者注-「しぶき」に傍点)を飛ばして、無数の兎があたかも大平原を飛び上っているようだった。――それがカムサツカの「突風」の前ブレ(引用者注-「前ブレ」に傍点)だった。にわかに底潮の流れが早くなってくる。船が横に身体をずらし始めた。今まで右舷に見えていたカムサツカが、分らないうちに左舷になっていた。――船に居残っ…

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きみにならびて野にたてば

  『本の旅人』12月号。    梨木香歩『きみにならびて野にたてば』の3回目。    小説の地では、詩を書いている女性が、菅原千恵子の『宮沢賢治の青春』に出会うまで。それと保阪嘉内書簡の概説。     11月号が、嘉内と賢治の岩手山登山を描いていたので、重層的な語りで行きつ戻りつ進行するのだろう。これからの…

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