芥川龍之介『手巾』について

 かつて「女とハンケチ」という論を書いた(ここ)。 このところ、ナラトロジーの再勉強で気づいたことがあるのでそのことを書いておこう。研究史をサーベイしていないので、同じ指摘がすでにされている場合はご海容をお願いする。  法科大学教授長谷川謹造先生のところに西山篤子という女性の来訪がある。先生は婦人を卓と椅子のある応接室に案内し,紅茶茶椀に入れた冷茶を出す。婦人は、かねて療養中の息子憲一郎の死を…

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テクストは振動する

 漱石の『三四郎』に出てくる「高等モデル」と「元禄」という語の注釈ノートを作成した。次号の『論究日本文学』に掲載予定である。  書いてから、いろいろ考えたことについて記しておきたい。研究のバックヤードについて示したいという動機もある。  「高等モデル」は、美禰子が口にする言葉。「元禄」は、画家原口の画室にある着物、「元禄」の「小袖」のこと。  ともに、三四郎が湯屋で目撃する「三越」の看板に…

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斎藤昌三と『月に吠える』

 斎藤昌三と創作版画誌『月映(つくはえ)』の関わりについては、過去記事で記した(《『月映』と斎藤昌三》)。  『月に吠える』の刊行事情についての斎藤の認識がうかがわれる文章がある。昭和10年1月刊行の『書淫行状記』(書物展望社)所収の「書痴漫録」である。 初出は、『文藝汎論』昭和9年9月号とある。「書痴漫録」の「詩歌書の発禁」という章に次のような記述がある。 大正六年二月、感情詩社から発行した…

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『學鐙』春号は、「特集夏目漱石」

『學鐙』春号は、「特集夏目漱石」。 『學鐙』も月刊から季刊に移行するようだ。この春号が、漱石特集であることを偶然知って、版元に注文した。多くの人が、見開き2頁でエッセイを書いている。2篇気にかかるものがあったので、紹介しつつ、思うところ述べてみたい。研究ノートのひとつだと考えていただければありがたい。        池端俊策「ドラマ「夏目漱石の妻」で書かなかった人物達」 まず、池端俊策氏の「ドラ…

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松尾少年が漱石に尋ねたこと

松尾少年が漱石に尋ねたこと                  木股知史 1 松尾少年への手紙  松尾寛一という十一歳の少年に宛てた大正3 年4 月24日付の夏目漱石の書簡が残っている。読者としての少年が、新聞小説『心』について質問してきたことへの返事である。まず全文を引用しておこう。*1  あの「心」という小説のなかにある先生という人はもう死んでしまひました、名前はありますがあなたが覚え…

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